パリダカ優勝をもたらしたユベール・オリオールの存在

そのBMW Motorradを駆って、BMW Motorradに初のパリダカ優勝もたらしたユベール・オリオールに対して、松井さんはどのような印象を持っているのだろうか。

松井  ダカールに出場する四輪ドライバーの手伝いで初めてパリを訪れ、パリダカの空気にナマで触れた1987年。スタートの手伝いを終え、帰国してしばらく経ってもまだ、その年のパリダカは続いていました。そしてそこでは、いまでも語り継がれる大きなドラマがありました。その主人公が、すでにBMW Motorradを離れていましたが、ユベール・オリオールその人だったのです。

当時パリダカは1月1日から22日頃までの開催期間中、1万3~4000kmを走るレースでした。そこでオリオールは20日まで、2位以下を30分以上引き離してトップを走っていました。そしてその20日は、最後の砂漠ステージでした。しかしオリオールは頻繁にパンクをして、タイムアドバンテージを減らしていました。そこで焦ったのか、キャメルグラスという根の硬い、低い木が生え茂るセクションでクラッシュしたのです。聞いた話によると切り株に足をヒットさせ両足を骨折。しかしそのままバイクを走らせ満身創痍でその日のゴール地点まで走りきったのです。その時点では、わずかながら2位に差を付けてトップを維持していましたが、両足骨折でレースを継続することができずリタイヤしてしまったのです。その両足は開放骨折だったらしく、普通の人なら意識を保つことすら難しい状態だったそうです。

つい何週間か前にフランスでスタートを見送ったライダーやドライバーたちが、それからしばらくして帰国し、お正月気分もすっかり抜けた1月20日頃に、まだレースを続けていて、そんな衝撃的なドラマが展開されていた。そのとき僕は、そんなドラマの中に自分が居たいと、強烈に考えたわけです。それから僕は、一気にパリダカに傾倒していきました。

また僕にとって、初めて記憶に刻まれたBMW Motorradのバイクとは、パリダカで初優勝したR80 G/Sベースのパリダカ・レーサーであり、それを駆ったユベール・オリオールでした。何も知らなかった当時は、よくもこんなバイクで砂漠を走るな、と思っていました。そして1988年に四輪のナビゲーターとして初めてパリダカに参戦したときは、オリオールが四輪に転向した最初の年で、僕は真っ先にオリオールに握手を求めに行きました。また90年代の数年間、オリオールがダカール・ラリーを主催する団体の代表となった時期がありました。そのプロモーションで来日したときも、取材にかこつけてパリダカ・レーサーで戦った頃の話を聞き出していました。

そんなユベール・オリオールが、現在BMW Motorradヘリテイジ・カテゴリーのナビゲーターを務めるジョイ・ルイスとともに走らせるUrban G/Sとはどんなモデルなのだろうか。松井さんに、その印象を聞いてみた。

松井  Urban G/Sというモデル名を聞いたときに、“やられた”と感じました。

イメージソースとなったR 80 G/Sは、そのDNAに、G=ゲレンデ(オフロード)とともにS=シュトラッセ(オンロード)が含まれていました。だからこそ、オフロードレーサー的なアグレッシブさを追求するのではなく、あらゆる道を走るために、エンジンにしても車体にしても、あえて落ち着いた反応を造り込んでいました。その懐の深さが大いに受け、デビュー当時からいままで、ヨーロッパの街中では本当に多くのGSを見ることができます。要するに、GSのDNAには“街=Urban”がしっかりと刻まれていると、僕自身が感じていたからです。

現在のGSシリーズは、その多様性を進化させたことでグローブトロッター(世界を股に掛ける冒険者)的なパフォーマンスとイメージを高めてきました。対してUrban G/Sは、その根底であるG=ゲレンデとS=シュトラッセを走る楽しさを、スーパースポーツに対するカフェレーサーのように、シンプルでカジュアルに表現したようなモデルだと感じています。

僕自身も、まだUrban G/Sに乗ることができていないので、いまから楽しみにしています。

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撮影協力
今回、撮影にご協力頂いたのは東京・練馬にあるリーンフォースメント。オーナー自身が熱狂的なHPNのファンであり、HPNとの関係を活かしHPNマシンの製作、またBMW MotorradのOHVマシンを中心としたラリーマシンの製作や、ラリー機器および用品の取り扱いも行っている。HPNは1980年代BMW Motorradがパリダカに参戦する際に、ラリーマシンの開発を行ったファクトリー。現在は、そのノウハウを活かして製造されたオリジナルフレームを使った二輪メーカーとしても知られている。
http://reinforcement.jp

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R nineT Urban G/S Official Movie

BMW MotorradのオフィシャルYoutubeチャンネルでは、今後、ナビゲーターのジョイ・ルイスを中心に、R nineT Urban G/Sで走るダカールの映像や、ユベール・オリオールのインタビュー動画なども公開予定です。ナビゲーターのジョイ・ルイスは、アメリカ・カリフォルニア在住の女性。10代前半、父からプレゼントされたバイクによってその楽しさに目覚め、現在は数多くのビンテージバイクを所有しながら、ビンテージ・フラットトラックレースやビンテージモトクロスレースに積極的に参加しているエンスージアストだ。また有名スポーツブランドの海外小売り部門を担当しているほか、アメリカで開催される女性オンリーのバイカーミーティングの開催などもサポートしている。